飴と鞭






活気のある声が飛び交う市。
このところ天候も穏やかで、行き交う人たちの顔も晴れやかだ。




「おや、光秀様がいらっしゃっている」
「きゃ、今日も涼やかでいらっしゃるわ・・・」
「おひとりなのはお珍しいね」




私を見かけ、町の民が声をあげる。
最近は信長様や秀吉殿と訪れることが多く、一人での外出は珍しいことではある。
今日は厄介な仕事を終わらせて、久々に気分転換をしようと思いある場所に向かっている。




「あらあら、光秀様!」
「こんにちは、いつもの頂けますか?」
「いつものですね、かしこまりました。ふふ、それでもお久しぶりでしたね」
「ええ、少し厄介な件がありましてね・・・」
「あら、そうだったんですか、うちので疲れを少しでも癒せるといいんですけどね」
「ありがとうございます。あ・・・そうだ・・・」




店の女将と軽く言葉を交わし、腹ごしらえを終えて外に出る。
民と町の様子をしばらく見て周り、太陽が傾く頃城に戻った。








ざわめく声が静まり虫の声が聞こえる刻限。
もうすぐ書状に目を通し終えるかという頃。
「ただいま戻りました」
「・・・おかえり、首尾はどうだったかな」




私の可愛い小鳥。
忍びの任務を終えて戻ってきた時には、必ず主に報告を上げに来る。
以前として、報告を受け新たな任務を伝えるという、忍と主の関係は続いている。




「現状、信長殿の周囲を取り巻く、要となる組織はほぼない状態とはなりました」
「けれど、いくらでも湧いてくるからね、奴らは・・・」
「そうですね・・・いえ、すべて倒してみせます」
「ふふ、心強いね、私の小鳥は」




けれど、その小鳥は。




「そうだ、君にこれをあげる」
「?・・・なんですか?」
「あけてごらん」
「これ・・・お饅頭ですか」
「そう、少し遠出してもらったからね、お腹すいてるんじゃないかと思って」
「わ、ありがとうございます」




そういってひとつつまんで口に含む姿は、ただの少女そのもの。
忍の時の凛々しい姿も良いけれど、笑顔になると柔らかい空気を途端に含む。
・・・それもいい




「光秀殿も食べませんか?」
「・・・そうだね、それじゃあ」




差し出された箱の中から、一つつまんで口元へ。
ふと、その状況を柔らかな目で見つめる君と目が合い、思わずニヤリとする。
小首を傾げてこちらをみる君は少女そのもの。
独り占めしたい、と思った時にはすでに。




「!?・・・!!」
「ふふ」
「・・・!・・・っ」
「はは、君、その顔。前見たときと一緒!ははは」




饅頭を君の口へ押し付けて食べさせる。
かつて、君が桔梗だったときに同じことをした。
・・・あの時、私の前でだけ面白い顔をしたことがなぜ嬉しかったのがわからなかったけれど。
今ならわかる。




「・・・うぅぅ、光秀殿!何するんですか」
「はは、食べた?ははは、だって君の顔面白いんだもの」
「もう、せっかく最後の一個だったのに・・・」
「その一個を堪能できたんだからよかったでしょう?」
「よくありません、光秀殿は結局食べれなかったし、私も食べるなら普通に食べたかったですし」
「私はいいんだよ、店で食べてきたのだからね」
「けれど・・・せっかく一緒にいるのに一緒に食べないのって・・・」




そういって拗ねて紅くなる君。
・・・そうだねえ、どうしてあげようか。
そんな仕草が私の独占欲を掻き立てるなんて、かけらも思っていないでしょう。
だから、




「可愛いお口は閉じようか」
「え・・・」












「ん・・・」

「・・・っはぁ」


「・・・ごちそうさま、これで一緒に食べたでしょ」
「ばかっ・・・ですか」
「ふーん・・・うるさいお口には、こうだよ」










可愛い私の小鳥。



あんまり愛いことを言うと、お仕置き、だよ。














この人の鞭は飴より甘そう・・・ほたる限定で笑  

 


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