本当のところ







北の大地に聳え立ち、誰一人として寄せ付けない氷塊の楼閣に辿り着こうとする、人影があった。
それは齢17の普通の少女、望美。
町の娘達と違っていたことは、異なる世界から召された龍神の神子、だということだけである…。




「なぜですか?」

「…何に対しての問だ」



望美は、泰衡に対して反論を始めていた。



「ですから、私が今すぐここから立ち去らねばならない理由はなんですか?」
「神子殿は元の世界に帰るのがそれほど嫌だというのか」
「そういうわけじゃありません!」
「ほう、では逆に問おう。なぜここへ留まりたいなどと口にする?」
「…それは、だから…」



反論を更に返されるのはいつもの事、なのだが、望美は今回引き下がるつもりはなかった。



「俺の命を狙う輩からは、あらかた守っていただいたが他に?」
「!…駄目、なんですか?」
「理由も聞かずに食い扶持を増やす気はないのでな」
「…そう、ですよね」
「…」




この少女はいったい何を考えている?
本来あるべき場所に戻れるのだから、そうすれば良いものを…こうして先送り、いや避けようとし、ここへの残留まで口にする始末だ。

…そうすることが彼女にとって最善だろうに…







やっぱり泰衡さんは気づいてくれない、か。
私がどうして平泉に残ったのか、帰るのを中断してまで助けたのか…。
私は、ずっと続くことを祈っている。


泰衡さんと一緒に生きていくことを…。


だから、私は聞いてみることにした。
どうしても、これだけは、譲れないから…




「あの…」
「なんだ?」
「泰衡さんは、私がどうして残りたいか、思いつきませんか?」
「…?」
「私が、望めばすぐに手に入る元の生活よりも、この平泉にいることを望むのか」




彼特有の眉間のしわが揺れる。
たぶん、彼は気付いているのに『気付こうとしていない』



「…わからんな」
「本当ですか?」


後一歩


「…なにが言いたい。」
「…」


私は、あまりにじれったくなって勇気を振り絞ることにした。


私は目の前にいる彼に気持ちを伝えたくて、無意識に胸元に飛び込んで、呟く。







そう、その一言が最後の砦。













一瞬の出来事だった。






気づけば神子が俺の胸に飛び込んでいた。

長い間感じることのなかった、しめつけられるような、けれど熱のこもった胸の苦しみを感じ、不思議と引き剥がすことはしなかった。

むしろ、彼女が囁いた一言で、自身も気づいていなかった胸のうちを公にされ、距離を縮める結果にいたったのだから…。










貴方とずっと一緒にいたいんです…ダメですか?













気付いたら負け、ではないんですよ泰衡さん


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